安森源次兵衛は、主家より預かった名刀庚申丸を盗まれて切腹、
家は取り潰しとなる。
それがもとで、息子の吉三郎は、ぐれて盗人お坊吉三を名乗っている。
その後、庚申丸が百両の金に姿をかえ何人かの手に渡るうち、百両を
めぐって名うての盗賊お嬢吉三、お坊吉三、和尚吉三が大川端で出会い、
義兄弟の血盃をかわす。
しかし、悪事を重ねた三人には、さまざまな因縁がからんでいた。
追いつめられた三人吉三は、本郷火の見櫓辺りで大立ち回りを繰りひろげ――――。
坪内逍遥に「江戸歌舞伎の大問屋」といわれ、特に白浪物(盗賊を扱った歌舞伎狂言)に抜群の才筆をみせた黙阿弥45歳の会心作。
初演は安政七(1860)年。この年は庚申(こうしん)の年で、「庚申の宵に懐妊した子は盗癖がある」という俗説にちなんで、「八百屋お七」の趣向により、『吉三』と名乗る3人の盗賊を活躍させた白浪物。
明治維新から遡ること8年前。歴史の転換期の真只中に身を置いた人間でなくては、伝えられない“人の闇”が鮮明に浮き上がってくる究極の因果ドラマ。