戦後60数年、今ほど人間の心が荒んだ時はなかったと思います。
やさしさ、あたたかさ、他人のことを思いやる気持がどんどん失われてゆく。家族や世代の断絶がひろがってゆく……。ことに殺人事件の多さには眼を覆いたくなります。
こんなに世相が混乱した原因の一つには、われわれ現代人が日本の歴史や文化を学ばす、よい伝統を次代に伝えていないということにあるような気がします。
東洋古来のものを侮り、目先ばかりの新しさ、西洋的なものばかりを追いまわして、自分の父母や先祖たちが残してくれた大切なもの、すばらしいものを忘れているのではないかと痛感しています。
私は日本人の心のふるさとは仏教の中にあると信じています。
ことに法然上人と親鸞聖人の称えた本願の念仏は、あらゆる仏典の中から選びに選びぬかれた真理の結晶だと思います。
一切の差別を排して万民平等をめざしたお二人の教え、非暴力に徹した生涯――。
すべての人間はみな兄弟であり、み仏はその大いなる父母であり、いつも西のかなたから人びとの幸せを見守っている……。このことを大勢の人びとに知らせたい。そして笑顔と奥床しさをよみがえらせたい……。
ですから今度の劇では、法然上人と親鸞聖人の言葉を、歩んだ道を、中でもお二人がまわりの人間一人一人をどんなに大切になされたかということを、観客の皆さまに伝えたいというのが私の願いです。
劇のテーマは希望です。
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