「僕は高校時代、山口県の田舎にいました。戦後のあの時代は山口県にも前進座の巡回公演があって、シエークスビアの『ベニスの商人』をやるんだ、うわー、観たいなー"と思ったけど、観られなかった。前進座は当時すごい人気があって、切符が手に入らなかったんです。その後、前進座が独立プロダクションとして映画『箱根風雲録』(監督・山本薩夫)を製作した時、僕は大学の映画サークルにいて、この映画を支援するために各大学の映画サークルを動員して大勢でエキストラにかけつけたものです。
僕は、本当に笑える楽しい喜劇を前進座が創造してくれるといいなあと思います。今、日本人は笑いたいんだけど、気持ちよく笑わせることほど難しいことはない。それは、笑わせる方が、観客と同じような生きる辛さを共有していないといけないからです。そして、前進座にはその資格があると思うんです。」
-2011年4月放送 NHK教育テレビ「芸能百花繚乱〜前進座八十年の軌跡〜」インタビューより
今回初めて、前進座と一緒に舞台を創ることになりました。落語の「らくだ」と「井戸の茶碗」をもとに、ある裏長屋で起こる騒動のお話です。五年前にお話しさせていただいたことが、このような形で実現でき、長年の前進座との想い出に新しいへージが追加されることに、わくわくしています。どうぞ、ご見物の時には、舞台の俳優さんと同じ空間で、笑いや喜びを共有して、にぎやかに大声で笑いながらお楽しみください。
(山田洋次)