かいせつ・みどころ

彼女たちの感情



朝井まかて江戸の女性たちは身分を問わず、よく働きました。庶民の間では見目形のみならず甲斐性のあることがモテる条件になりましたし、武家の妻たちも家の交際、家政に手腕を揮いました。そんな働く江戸の女性のトップクラスが江戸城大奥の奥女中で、すなわち江戸のキャリアウーマンの華でした。

ところが幕府の瓦解によって、江戸城は新政府軍に明け渡されることになります。現代の私たちは有名な「無血開城」だと知っていますが、慶應四年(1868)当時では江戸城が総攻撃され、市中が戦火に焼かれる可能性は多分にあったのです。むろん大奥で暮らす者たちにも、立ち退き命令が下されました。一生を懸ける覚悟で奉公に励んできたというのに、その職場・生活の場から突如として追われるのです。その心中はいかばかりであっただろうと想像を巡らせたことが、『残り者』という小説を書く契機となりました。

主人公は五人の女たち。役職も出自もそれぞれ異なりますが、危険を承知しながら御殿に留まってしまいます。残る者たちです。そして天璋院篤姫の飼い猫であった、一匹の白猫も。

このたび前進座さんが、この『残り者』を原作として舞台化してくださることになりました。歴史劇・時代劇においては今も白眉の劇団ですから、前進座の女優さんたちが『残り者』をどう演じてくださるか、胸が躍ります。

激動の世を生き抜いた女たちの、たった一日の戦いなのです。百五十年前の感情を、歓びや悲しみや不安、強さを、舞台と客席が一体となって共有する瞬間を楽しみにしています。

そして、女性たちが主人公のこの舞台が、前進座の次代を開く挑戦にもなりますようにと願います。

 

朝井まかて 

 

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