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車力善八問わず語り -梅雨借着喜八丈-

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 京都・河原町の空は吸い込まれるように青かった。

 一月の二日、その年の初春南座公演『おれの足音』舞台稽古開始直前に、のっぴきならない理由で私の役が無くなってしまったのだった。
 ポカンと空いた時間、糸の切れた凧のように街を漂った。役者と舞台とを結び付けてくれる糸は“役”しかないのだと、しみじみと思った。
 このまま何処かに行ってしまおうかと言う自分を抑えて、何を思ったか忠臣蔵関係の本を二冊求めて楽屋に戻った。

 この芝居の千秋楽間際、急に代役が降って湧いた。聞いたのは開演一時間半前。大詰めの役とはいえ、もう四時間ほどしかない。
 台詞も動きも多くはないが、赤穂浪士の要の一人。自分は原惣右衛門だと信じてそこに居られなければ、役にならない。そのヒントは化粧前の脇に立ててあった件の本に記されていた。

 役者にとって代役はチャンス。とは言え、もとよりアクシデントだからこちらの都合に合わせてはくれない。
  24時間以上の猶予は普通ない。四国の巡演で狂言舞踊『素襖落』の鈍太郎を替わった時は、前の日の舞台を終えた宿の夕食最中。翌日の舞台までは20時間ほど。

 それに較べれば、申し渡しから初日まで一週間あった今回の車力善八役は、とても恵まれたものでした。いやそれより何より一度やってみたかった役が降って来たのですから。

 あっという間に三分の一が過ぎてしまいましたが、悔いの無いよう楽しみます。

【松涛喜八郎】  

一幕・車力の善八

一幕・車力の善八

 

二幕・松涛喜八郎・車力善八

肩当が車力らしいですね。

 


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