“足軽は往来で上士と出会えば平伏しなければならない”という藩の仕来りが枷となり、足軽・寺田金吾は、徒士頭である上遠野久作を切り捨て、脱藩した。父・久作の仇討ちを決意した若き日の関蔵は嫁いで間もない女房・喜代を残し、後を追う。
それから34年。ようやく念願を果たした関蔵は懐かしい我が家に帰還する。
長い不在にも関わらず、夫を待ち続けた喜代との再会に溢れる涙―。
かたや、家督を預け、留守中の家族の面倒を任せておいた叔父甚衛門とその息子栄之助は、随分以前より、喜代を見捨て、仕送りを止めていた。関蔵の帰参により、お役と家督を取り返されることを恐れた栄之助は、息子新一郎と朋輩を使い、関蔵の誹謗中傷を藩内に触れ回って、妨害する。
栄之助の心根を見抜いた関蔵は喜代の甥桑山只次郎を養子に迎え、帰参を果たすべく、家老戸田左京と面会するのだが・・・。
関蔵には失った34年の時を埋めるべく抱いた夢があった。むなしい仇討ちに費やした人生を取り戻すように、たとえ5年、10年でも、夫婦で仲良く想いのまま生きること、それだけが望みだった。
全てが終わり、再び旅立ちの途に着くこととなった関蔵。傍らには女房喜代がいる。
そこで関蔵は、若き日に出会った願人坊主を中心に新たな衝撃の真実を伝える・・・。