ものがたり

 

1946年5月――焼跡にバラックや闇市のひしめく東京・新宿駅に、くたびれたボストンバッグを提げ、つば広の帽子をかぶった一人の女性がおりたった。
“絵描きとして自立する”という熱い思い、そして消せない過去との葛藤をかかえて―。

彼女の名は岩崎ちひろ。

小さな新聞社に就職し、師や友を得、東京での居場所をみつけていくちひろ。 そんなちひろの前に、澄んだ目をした一人の青年が現れた・・・。

 

戦争が奪った絵筆、そして戦争が描かせた絵・・・敗戦直後の激動の時代を駆け抜けたちひろ、彼女をめぐる若者たち、絵描きたちの青春の物語。

 

 

 脚本家より

 

世代を超えて愛されている美しく優しい絵―子どもの幸せと平和を希求し続けた生涯…。自称「絵本マニア」の私が、ちひろさんの一ファンとして漠然と思い描いていたのは、ふんわりとした優しげな、やや優等生的な女性像でした。

しかし今回、膨大な資料、エピソードを紐解く中で、そのイメージは完全に覆されました。ちひろさんの生涯をつらぬいていたのは、前半生に無自覚に犯した罪への痛恨の思いでした。戦後再出発を決意し、新しい時代の中で、〝奮闘努力〟を続けた勇敢な女性、それでいて日々くよくよ悩みもがいている私達となんら変わりのない等身大の人間…。

今回の舞台は、1946年、敗戦後一年足らずの東京に、単身仕事も住む場所もないままに乗り込んだちひろの、三年余りにわたる奮闘記です。東京で出会った師、友人、画家達…激動の時代の中で希望に燃えつつも、誰もが戦争に傷つき、大切なものを失っていました。「絵と結婚して、一生一人で絵を描いて生きていく…」ちひろは何故そんな決心をしたのか―そしてその堅い決意は変わるのでしょうか…?

稽古場では、ちひろと彼女をめぐる若者たちの〝焼け跡の青春〟が、個性溢れる出演者と、鵜山仁さんという最高の演出家を得て日々熟成し、笑いと涙の舞台へと立体化してきています。

あなたの知らない〝若き日のちひろ〟にどうぞ会いに来てください!   

朱 海青