阿国の出生をたたら(中・近世の製鉄業)者≠フ娘とした作者の想いは、「芸能の原点は生産労働にあった」という小説のモチーフに現れています。
阿国の故郷であるたたら集落は、現在の島根県雲南市吉田町。170年間燃え続けたたたら≠フ火は大正10年に消えましたが、〔菅谷たたら山内〕にその面影をとどめています。 生涯をひたすらに踊りぬき、愛に生きた【たたらの火のような女性】として、阿国は今日によみがえってきました。
[写真]上・ロケハン/下・たたら内部
阿国は当初、出雲の巫女と称し京の四条河原で念仏踊りを興行していました。 河原に集いともに手を打って楽しむ人々の前で踊りたい阿国。一方、一座の鼓打ちで阿国の愛人・三九郎は富豪や貴人の引き立てをひたすら望んでいました。 しだいに隔たっていく二人の心―。 三九郎の心が若いお菊に移ったことを知った阿国は、「男になりたや」と、長い髪を元からばっさり切ってしまいます。 その後、道化役の伝介が女装、阿国は男振り≠ニ、たがいに傾(かぶ)いて踊り、笑いと喝采を呼びました。 【阿国歌舞伎】はこうして誕生、「天下一」ともてはやされます。
阿国を見出し、ともに芸道を極めようとした三九郎。 三九郎を愛していながらも、目指す道が違ってしまった彼の裏切りを乗り越え、自らの道を進んでいく阿国。 そんな阿国を愛し、常に見守り支え続けた踊りのパートナー・伝介。 夫・伝介の想いに気付きながらも、彼と阿国を見つめ続ける、岩のような強さを持った女性・お松。 そして、阿国に憧れ阿国を追って一座に加わりながら、上へ上へと目指す三九郎とともに去っていくお菊…。 一座の中で交差する、様々な愛と人間模様―。
この阿国と伝介の問答は、演劇や芸能に関わる者が常に自身に問いかけ続けることでしょう。 私たちは、皆様の心に「銭では買えぬほどのもの」を残せるような舞台創りを目指してまいります。
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