階段を駈け降りる荒々しい足音が二つ。部屋の前に止まったかと思うと、鍵を差し込むのももどかしいように慌しく戸があけられた。生暖かい部屋に差し込む外光が、壁面に鏡が並んだ奇妙な内装を照らし出す。
かばんを背負ったままの男は、室内を一瞥すると次の部屋を覗き、手にした図面を睨み付けながら、再び階段を駆け上がった。同じような背格好の男が、緊迫した面持ちで、階段を2、3段踏み外しながらも、ピッタリとついていく。
「想定外だ……」 ※ ?1
「おい、これは!!」
そのころ、流し場では別の二人が険しい顔を見合わせていた。
「うちのだな。そうにちがいない…」
スヌーピーのTシャツを着た顔の広い男は、つぶやくように繰り返すと、何事もなかったかのように続けた。
「じゃ、メロンはこっちで剥くから。お茶セット。」
赤いTシャツの浅黒い短髪の男は、空手の礼をするとそそくさと出て行った。 ※ ?2
「夜のバスの座席なんですけど…」階段の上ではジャージ姿の長身の男が、オレンジ色のTシャツを着た小柄な男にメモを示す。二人とも日本人離れした風貌をしている。
※ ?3
「…それから、どんなに長いものでも、あ………どんなに軽くても、長いものは両端をお二人で持ってください。鬘の箱は斜めにすると中で鬘がペコッとなっちゃいますから…」
赤いジャージ・パンツの男が十人ほどの男女を集めて、噴き出す汗を拭いながら説明をしている。
こうして…今日も舞台搬入が始まった。 ※ ?4